一ノ瀬 聡さんは、結婚3年目の32歳男性。
学生の頃から成績優秀で、一流大学を卒業後は一流企業へ就職し、そこで今の妻と出会い、晴れて結婚。
職場では上司からの信頼も厚く、家に帰ると美人な妻が待っている、まさに順風満帆な日々を送り、将来も安泰。
のはずでした…。
絵に描いたようなエリート街道まっしぐらで、美人な妻もいて、何一つ不満のない、そんな聡さんでしたが、一つだけ、誰にも言えない秘密を抱えていました。
その秘密とは、会社の後輩、石川詩織さん(26歳)との不倫です。
詩織さんとは、2年前に同じプロジェクトに携わったことをきっかけに親しくなりました。
しっかりものの妻と比べると、仕事以外では少し天然なところがある詩織さんに、聡さんはいつしか惹かれるようになり、一年前から体の関係を持つようになったのです。
詩織さんは、体の関係を重ねるごとに聡さんへの愛情が増し、いつか自分を選んでくれると思うようになりました。
ところが、詩織さんと不倫関係になってから一年が経とうとした頃、聡さんは「このまま不倫を続けていたら、必ず妻にバレてしまう」そう思い、詩織さんとの関係をどう終わらせるか考えるようになっていました。
そんなある日、詩織さんにそれとなく伝えようと会いに行った聡さんに衝撃が走ります。
なんと、詩織さんから「妊娠した」と告げられたのです。
それだけではなく、すでに詩織さんはお腹の子供を産む決意までしていました。
聡さんへの愛がピークにまで達していた詩織さんは、彼との子供を妊娠したとわかると、
これで聡さんと一緒になれると信じて疑わず、聡さんも自分と同じ気持ちだと思っていたのです。
しかし、残念ながら、現実はそうではありませんでした。
詩織さんの期待をよそに、聡さんは詩織さんの妊娠に動揺を隠せず、出産することに反対したのです。
その聡さんの反応を目の当たりにした詩織さんは、ようやく聡さんの本当の気持ち、本心に気づきました。
聡さんは私を本気で愛してはいないのだ…と。
私はこれほど愛しているのに、彼はそうではなかった。
愛する人から裏切られたような気持ちになった詩織さんは深く傷つきましたが、それでも「聡さんとの子供を産みたい」という気持ちは変わりませんでした。
妊娠の話が解決しないまま、月日だけがどんどん過ぎ、詩織さんは体調不良が目立つようになりました。
そんな詩織さんを心配した上司は、詩織さんと面談することに。
上司は出産経験のある既婚女性ということもあり、面談してすぐ、詩織さんが妊娠していることに気づきました。
誰にも言えず一人悩んでいた詩織さんは、上司にバレたことで緊張の糸が切れてしまい、涙ながらに事の経緯を打ち明けました。
すべてを聞いた上司は、妻として、詩織さんの行動に腹が立ったものの、同じ女性として、聡さんの無責任な対応にもまた腹が立ち、どう対処するか慎重に考えました。
事を荒立てないように努めた上司でしたが、そんな上司と詩織さんの空気を女性社員たちは見逃しませんでした。
女性社員達の情報網と観察眼により、二人の噂はあっという間に社内中に広まり、上層部の耳にも入ることになりました。
すぐさま事実確認が行われ、二人が不倫関係にあったことが会社にもバレてしまったのです。
上司からの期待も厚く、順調に昇進を重ねていた聡さんは、会社からどんな処分がくだされるのかと怯えていました。
ところが、会社からは「不倫は基本的に懲戒処分の対象とならず、あくまでも個人の問題とする。」とされ、関係を解消することを条件に特別な処分はありませんでした。
それほど、聡さんは上司や会社から期待され、今回のことで聡さんという人材を失うことは会社にとって大きな実害がでる可能性があると判断されたのです。聡さんだけおとがめなしとすると、不公平になるとし、詩織さんも同様に処分は取り消されたのでした。
この判断にほっと胸をなでおろす聡さん。
しかし、この会社の判断に納得しなかったのは、社員達でした。
特に女性社員の大半と聡さんのライバル達です。
どこからともなく集まる二人への、特に聡さんに対する誹謗中傷と会社への非難。
それらは、収拾がつかない状態にまで拡大してしまいました。
さすがに、多くの社員を敵にまわすことはできないと、聡さんに減給と降格の、詩織さんには減給と出勤停止の処分がくだされることになりました。
この処分により、社内の騒動は、一旦は落ち着きを取り戻しました。
社内の騒動は落ち着きましたが、聡さんと詩織さんは、そういうわけにもいきませんでした。
聡さんは減給と降格の理由を妻に説明せざるを得なくなり、妻にも不倫していることがバレてしまい、詩織さんのお腹では今も赤ちゃんが成長し続けているからです。
聡さんの妻、悠里子さん(32歳)は、不倫だけでなく、不倫相手が妊娠している事実を突きつけられ、大激怒しました。
不倫という裏切りだけでなく、自分たちにはまだ子供がいないにも関わらず、先に他の女性との子供ができたことに、悠里子さんの怒りは収まることを知らず、日に日に増す一方でした。
悠里子さんは弁護士に相談し、離婚することを決意し、慰謝料を請求することにしました。
正直、詩織さんに対しても腹が立っていましたが、妊娠し出産を控えているということで、出産中はもちろん、その後も大変な思いをすることを考えた結果、そんな人に慰謝料を請求するのは人道に反する、自分も不倫した二人と同等に落ちてしまうという自身のポリシーにより、目を瞑ることにしました。
圧倒的に不利な聡さんは、悠里子さんの請求通りの慰謝料を支払い、そして離婚することが決定しました。
エリート街道まっしぐらの人生から一転、社内にその事実が知れ渡り、腫れ物扱いをされるようになった聡さんでしたが、聡さんの転落はまだ終わりませんでした。
なぜなら、聡さんには、詩織さんとの子供の問題が残っていたからです。
詩織さんは、聡さんに対して、以前のような愛情は一切なくなっていました。
しかし、子供は育てなくてはなりません。そのため、毎月の養育費を請求したのです。
聡さんは、減給と降格により、以前のような収入は見込めなくなってしまいました。
それでも、元妻への慰謝料と、不倫相手への養育費を支払わなくてはなりません。
いくら会社から期待されているとは言え、それ以上に社内での評判がガタ落ちしてしまったため、聡さんを擁護するにも限界があり、会社としても思うような待遇を与えられない状態になってしまったのです。
慰謝料と養育費の支払いに追われ、同僚からは腫れ物扱いされる聡さん。
あれほど順風満帆で絵に描いたようなエリート街道まっしぐらだった以前の聡さんは見る影もありません。
以前の聡さんしか知らない人にとっては、まるで別人で聡さんだとは気づかない人もいるでしょう。
それほどまでに、聡さんは転落してしまったのです。
たった一度の気の迷い、それがここまでの転落を招くことになるとは…。
そんな後悔をする暇もないほど、今もなお、支払いに追われる日々を送る聡さんでした。
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